店舗開発部の今昔

10年前と現在で、「店舗」の位置づけは変わった。それに伴い「店舗開発部」は十分に変わってきただろうか?

  • 店舗ビジネスを行う企業は、規模が小さいうちは、経営者が店舗開発(出退店)の機能を担う。多くの場合、一定以上の規模(出店速度)になった時に、店舗開発部が作られる。
  • そうして作られた店舗開発部の基本的な機能は、開発営業、即ち物件探索/(一次)選定と、物件管理である。そして多くの企業では、その役割に留まる。
  • しかし、店舗ビジネスにおける「店舗」の意義が変わる中で、店舗開発部に求められる機能も変わる。店舗開発部が出店戦略(エリア戦略、出退店基準の策定)、事業戦略(出店目標、ビジネスモデルの見直し)まで関わるという選択肢もある。
  • 幅広い機能を期待するほど、店舗開発トップには高い能力が求められる。店舗ビジネスの舵取りが難しくなる今だからこそ、店舗開発が幅広い機能を持たせ、事業規模を健全に伸ばすのも一案だろう。

はじめに

年間の出店数が1桁前半程度の企業であれば、経営者(創業者)が直接出退店を管理する場合が多い。規模が小さい間は、出退店が事業成長(会社の成長)を左右する、最重要ファクターだからである。また、経営者(創業者)はビジネス感覚に優れている人が多い。そのため、経営者(創業者)が出退店判断を行うのが、最も成功確率が高くなるであろう。

しかし、一定企業規模が大きくなり、出店を加速させる段階では、経営者が直接出退店を行うのは(工数的に)難しくなる。そこで、店舗開発部が作られる。そして多くの企業において、店舗開発は物件探索、(一次)選定、店舗管理を担うことになる。

これが昔ながらの店舗開発部の姿だろう。しかし、コロナ、少子高齢化、完全自動運転、ドローン物流…。事業環境は変わり、「どの様にリアル店舗を持つか」、舵取りはますます難しくなっている。そのような中で、店舗開発は昔ながらの姿のままでよいのだろうか。本レポートでは、これからの店舗開発が担う機能範囲について、一案を示したい。

「店舗開発」に必要な機能

下図に、企業が「店舗開発」するために必要なプロセスを整理した。
この中で、最も「店舗開発」という言葉に直接かかわる機能は、[C-1]開発営業、物件探索、(一次選定)、[C-2]設計/施工監理、店舗管理である。よい物件を探し、社内稟議に上げる。そして出店が決まれば、グランドオープンに向けた庶務を行い、オープン後は資産としての店舗のメンテナンスを行う。

1つレイヤを上げると、[B-1]エリア戦略/出退店基準の策定がある。これは、「どこで、どの様な物件なら出店するか」の方針を定めるものである。

もう1つレイヤを上げると、[A-1]ビジネスモデルの設計、[A-2]出店目標の策定、[D-1]新店パフォーマンス振返りが挙げられる。これは通常、店舗開発ではなく経営戦略、事業戦略レイヤの論点である。

店舗開発「部」が担う機能(昔)

私が見えている範囲においてだが、多くの企業において、店舗開発部は[C-1]開発営業、物件探索、(一次選定)、[C-2]設計/施工監理、店舗管理を担い、そしてそこに留まっている(【例1】)。2010年前半頃までの人口純増時代は、これが最適解だっただろう。「店舗フォーマットが定まっており、どんどん店舗数を増やす」時代においては、最も効率的な組織設計ではなかろうか。

しかし2010年中頃以降、少子高齢化、自動運転、ドローン物流など、店舗ビジネス(リアル店舗)の在り方を変える社会/技術変化が大きくなってきた。AIによる売上予測、携帯会社が整備する人流データなど、店舗開発の在り方に影響する技術革新もあった。10年前と現在で、「店舗」「店舗開発」のコンテキストは変わった。それに伴い「店舗開発」は十分に変わってきただろうか?

店舗開発「部」が担う機能(今)

この時代に、店舗開発部が[B-1]エリア戦略/出退店基準を策定する、という組織設計はあり得るのではなかろうか(【例2】)。例えば、「どの様な商圏/立地であれば出店Goとするか」「どの地域で物件を探索するか」の方針策定である。
その意義は、店舗開発部が「考える組織」になるためである。例えば現在の店舗開発は、「人口xx万人以上、今後5年は純増が見込まれるエリア」を即答できるだろうか。[B-1]レイヤまでの機能拡大することで、店舗開発は「事業戦略を前提に」「分析し戦術に落とし込み」「開発に向けた実務を行う」様になる。

更に、店舗開発に、[A-1]ビジネスモデルの設計、[A-2]出店目標の策定、[D-1]新店パフォーマンス振返りまで関わらせるパターンもあるかもしれない(【例3】)。例えば、「店舗面積、投資額はどの程度とするか」「賃料(R)は売上の何%、投資回収は何年までとするか」などの基準策定に関わることを意味している。
短期的には、開発マーケットの知見を自社ビジネスに活かす効果がある。世の中の賃料水準、建築費水準は動的である。リースバックで不動産開発する場合、不動産オーナからみて魅力的な「面積」「投資額」のバランスを考える必要がある。最前線で開発マーケットに触れている店舗開発部がここに関与することで、現事業の店舗開発力は高まる。中長期的には、事業環境変化、ビジネスモデルの変化(リアル店舗の位置づけ変化)、店舗開発活動をリンクさせる意義がある。

店舗開発部の機能を拡げるデメリット

一方、店舗開発部の機能を拡げるデメリットもある。先ず、店舗開発部に【例2】[B-1]エリア戦略/出退店基準の策定まで関わらせるには、「利益相反の壁」がある。通常、店舗開発実務を担う者は、出店数に責任を負う。経営は新店成功率を高めるために出退店基準は厳しくしたい。しかし店舗開発実務では出店基準は緩くするインセンティブがある。

また、【例3】[A-1]ビジネスモデルの設計、[A-2]出店目標の策定、[D-1]新店パフォーマンス振返りまで関わらせるには、「組織能力の壁」が存在する。下図は、開発を中心に据えた場合の、各ステークホルダーとの擦り合わせポイントを整理したものである。多くのステークホルダーがそれぞれ異なる関心を持つ中で、高度な擦り合わせを行わなくてはならない。これを担うには、店舗開発を担うメンバに対し、財務の知識、交渉術、運営実務の理解、これを踏まえた高度なコミュニケーション能力を求めることになる。

店舗開発部デザインの指針

結局のところ、現在の事業環境下において、店舗開発部にはどの範囲の機能を担わせるのが良いのだろうか?様々な要素を考慮する必要があるが、出店判断の複雑さ、年間出店数の2軸で判断するのが一案だろう。

例えば、ある企業で、

  • 複数の事業を展開しており、
  • その業態が成熟期を迎えており、
  • その事業がハイブランドでで、
  • 年間で2桁以上の出店を計画している

ケースを考える。この場合、その企業が抱える機能のうち、「店舗開発」が最も複雑性が高く、ボトルネックになり得る。とすると、「店舗開発」に自社で最も有能な人材を置くのも一案だろう。その場合、店舗開発には【例3】[A-1]ビジネスモデルの設計、[A-2]出店目標の策定、[D-1]新店パフォーマンス振返りまで求めて然るべきだ。

一方、ある企業が

  • 単一事業で、
  • まだ成長業態で、
  • 一般消費者向けの事業を展開しており、
  • 年間で1桁後半程度の出店を計画している

いるケースを考える。この場合、「店舗開発」はそこまで難易度が高くない。この場合、店舗開発には、【例1】[C-1]開発営業、物件探索、(一次選定)、[C-2]設計/施工監理、店舗管理のみ携わらせ、他は別部署で担うのも合理的であろう。

そしてその中間的な場合において、【例2】[B-1]エリア戦略/出退店基準の策定まで関わらせるのが一案だ。

終わりに

店舗ビジネスを営む事業者にとって、リアル店舗の位置づけを考えねばならない時代が訪れている。下手な店舗開発は負債になりかねない。目立たないところで、店舗開発は難化の一途をたどっている。

その様な中で、「店舗開発にどこまでの機能を持たせるか」に万能薬の答えは存在しない。しかし、出店判断の複雑性が増す中で、店舗開発部が果たす役割が変わらなくてよい道理はない。いま一度、店舗開発部が担うべき機能について、再考してもよいのではないか。

植井 陽大

プリンシパル

東京大学卒業後、野村総合研究所にて、介護、食品、医薬品業界等に対するコンサルティングを提供。海外展開支援、官公庁受託調査に従事。 その後、GCA(現Houlihan Lokey)にて、成長戦略立案、海外展開支援、ビジネスDDなどのサービスを提供。 これらの知見を活かし、2020年に当社に入社、PEファンド向けDD、出資後のVUP、及び当社新規事業の推進に従事。

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